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最高裁判所第一小法廷 昭和58年(オ)457号 判決 1987年10月08日

上告人

末正盛隆

右訴訟代理人弁護士

菅生浩三

葛原忠知

川崎全司

丸山恵司

甲斐直也

川本隆司

藤田整治

被上告人

中村慶一

被上告人

劉耒喜

被上告人

同前志郎

被上告人

濱田政敏

右四名訴訟代理人弁護士

小松三郎

被上告人

伊藤染工株式会社

右代表者代表取締役

尾藤角市

右訴訟代理人弁護士

本田卓禾

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人菅生浩三、同葛原忠知、同川崎全司、同丸山恵司、同甲斐直也、同川本隆司、同藤田整治の上告理由第一点について

所論の点についての原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意思表示により賃貸借契約関係を終了させることができる形成権であるから、その消滅時効については、債権に準ずるものとして、民法一六七条一項が適用され、その権利を行使することができる時から一〇年を経過したときは時効によつて消滅するものと解すべきところ、右解除権は、転借人が、賃借人(転貸人)との間で締結した転貸借契約に基づき、当該土地について使用収益を開始した時から、その権利行使が可能となつたものということができるから、その消滅時効は、右使用収益開始時から進行するものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、(1) 本件(一)土地の所有者である末正盛治は、大正初年ころ、六ノ坪合資会社(以下「訴外会社」という。)を設立し、同社をして右土地を含む自己所有不動産の管理をさせてきたものであるところ、上告人は、昭和三四年六月二二日、相続により、本件(一)土地の所有権を取得した、(2) 中村国義は、前賃借人の賃借期間を引き継いで、昭和一一年七月二九日、訴外会社から本件(一)土地を昭和一五年九月三〇日までの約定で賃借し、同地上に三戸一棟の建物(家屋番号二二番、二二番の二及び二二番の三)を所有していたものであるところ、被上告人中村慶一は、昭和二〇年三月一七日、家督相続により中村国義の権利義務を承継した(右賃貸借契約は昭和一五年九月三〇日及び同三五年九月三〇日にそれぞれ法定更新された。)、(3)被上告人伊藤染工株式会社(以下「被上告人伊藤染工」という。)は、昭和二五年一二月七日、被上告人中村から前記二二番の三の建物を譲り受けるとともに、本件(一)土地のうち右建物の敷地に当たる本件(四)土地を訴外会社の承諾を受けることなく転借し、同日以降これを使用収益している、(4) 訴外会社は、昭和五一年七月一六日到達の書面をもつて被上告人中村に対し、右無断転貸を理由として本件(一)土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした、というのであり、また、被上告人伊藤染工及び同濱田を除くその余の被上告人らが、本訴において、右無断転貸を理由とする本件(一)土地の賃貸借契約の解除権の消滅時効を援用したことは訴訟上明らかである。以上の事実関係のもとにおいては、右の解除権は、被上告人伊藤染工が本件(四)土地の使用収益を開始した昭和二五年一二月七日から一〇年後の昭和三五年一二月七日の経過とともに時効により消滅したものというべきであるから、上告人主張に係る訴外会社の被上告人中村に対する前記賃貸借契約解除の意思表示は、その効力を生ずるに由ないものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第三点について

原判決が上告人の被上告人伊藤染工及び同濱田に対する請求に関して所論指摘の判示をしているものでないことは、その説示に照らし明らかであるから、原判決に所論の違法があるものとは認められない。論旨は、原判決を正解しないでその違法をいうものにすぎず、採用することができない。

同第四点について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人伊藤染工は、訴外会社ひいて上告人に対抗できる転借権を時効により取得したものということができるものというべきであるから、これと同旨の原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、ひつきよう、判決の結論に影響しない事由について原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤哲郎 裁判官角田禮次郎 裁判官髙島益郎 裁判官大内恒夫 裁判官四ツ谷巖)

上告代理人菅生浩三、同葛原忠知、同川崎全司、同丸山恵司、同甲斐直也、同川本隆司、同藤田整治の上告理由

原判決には、以下のとおり、理由不備(審理不尽)、及び判決に影響を及ぼすべき法令の解釈適用を誤つた違法がある。

第一点 家屋番号二二番の二建物の所有権の帰属についての審理不尽の違法

一、原判決は、火事後復旧された右建物は被上告人同前の所有に属するものとは認められない、と判示する。

二、神戸市長田消防署長の回答(甲一三号証の二)及び同署長作成の火災調査報告書(甲一四号証)には、同建物が全焼した旨記載され、実況見分書及び現場写真によつても、天井は焼き抜け、板壁は焼損し、殆んどの柱が焼け朽ちていることは明白である。事実、原判決も、同建物が火災によつて相当の被害を受け、建物の約三分の二は天井が抜け、壁が落ちるという状態であつたことを認めている。

三、しかるに、原判決は、右同前か右建物に四七〇万円もの大金をかけてこれを復旧したことをもつて、逆に復旧可能状態であつたとの推論をしているが、昭和五一年当時に四七〇万円もの大金を使用したことは、「復旧」ではなく「建替」であり、従つて、新旧建物には同一性がないことをむしろ物語るものである。

上告人は新旧建物の同一性の欠如を主張しているにも拘らず、原判決は右同一性の有無についての判断を故意に回避し、右同前が従前通り被上告人中村に家賃を支払つている等という建物の物理的同一性の判断には無関係な事実をも混入させ、漫然と、「新建物が右同前の所有に属するものとは認められないから、右中村から同前に対して(三)土地の転貸がなされたと見るべき余地はない」と判示したことは、判決に影響を及ぼすべき事項について審理不尽の違法がある。

第二点 解除権の消滅時効について法令の適用解釈誤りの違法

一、原判決は、被上告人中村が同伊藤染工に対してなした(四)土地の無断転貸を理由とする上告人の対中村間の賃貸借契約の解除権は消滅時効によつて消滅した、と判示し、その前提として、右時効の起算点を無断転貸のなされた日の翌日と捉える。

二、しかしながら、無断転貸を理由とする賃貸借の解除についても、いわゆる「信頼関係破壊理論」の適用を排除すべき理由はないのであり、右解除権の消滅時効の起算点もこの見地から捉えるべきである。

無断転貸が継続している間は、賃借人(転貸人)は対賃貸人間の信頼関係を不断に破壊し続けているのであり、一回的な無断転貸行為のみによつて信頼関係が破壊されるものではない。従つて、無断転貸を理由とする解除権は、無断転貸状態が継続する間不断に発生していると解すべきであり(東京地裁昭和四三年三月二五日判時五四〇号四五頁、同地裁昭和四五年一〇月一五日判時六二一号五五頁)、仮に、そうでないとしても、無断転貸状態が信頼関係破壊の状態に達するまで継続した後に始めて解除権が発生すると解すべきである。

三、しかるに、原判決はこの点の考慮を誤り、無断転貸開始の瞬間を解除権の消滅時効の起算点と捉えており、消滅時効に関する民法の解釈適用を誤つた違法がある。しかも右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

第三点 解除権の時効消滅をもつて明渡請求に対する抗弁とした点についての法令の適用解釈誤りの違法

一、所有者たる賃貸人が無断転借人に対して賃貸物の返還を求めるのは、所有権に基いて物権的返還請求をしている。無断転貸を理由に原賃貸借契約を解除しなくとも右返還請求をなし得ることは大審院以来の確立された判例理論(最高裁昭和二六年四月二七日判決民集五巻五号三二五頁、同昭和二六年五月三一日判決民集五巻六号三五九頁、同昭和四一年一〇月二一日判決民集二〇巻八号一六四〇頁、同昭和五二年一〇月二四日裁判集民事一二二号六三頁)である。

二、上告人の被上告人伊藤染工及び同浜田に対する請求は、土地所有権に基づく賃貸権に基づく賃貸物の返還明渡請求である。原判決が原賃貸借の解除権が時効により消滅した以上、土地所有権に基づく返還明渡請求をなし得ないと判示していることは明らかに前記判例理論に違背し、民法の適用解釈を誤つた違法があり、これが判決に影響を及ぼすべきことは明らかである。

第四点 転借権の時効取得について審理不尽並びに法令の適用解釈の誤り

一、転借権を時効取得するためには、目的物の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、その用益が転借の意思に基づくものであることが客観的に表現されていなければならない。

被上告人伊藤染工は本件土地を同中村の所有と信じ、同人から賃借する意思しか有しておらず、真の所有者(賃貸人)たる上告人から転借する意思を持つていなかつたものである。

いかに賃借権が物権化したとはいえ、所有者(賃貸人)に対して転借の意思を有していない者が転借権を時効取得するはずがない。

二、この点について、原判決は、漫然と、右伊藤染工が本件土地を賃借又は転借する意思であつたことは明らかであり、且その意思が上告人との関係において客観的に表現されているものと認められる、と判示するのみで、右の点に関する判断を示していない。

三、従つて、原判決には転借権の取得時効の要件に関して審理不尽の違法、並びに民法の適用解釈を誤つた違法とが存在し、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

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